アメリカ旅行6〜ミュージカル〜

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 ブロードウェイでミュージカル観劇。こんなに憧れていたことは他にないかもしれない。予期しないタイミングだったけど、実現できて本当によかった。観劇の記録。

 

1.『Hamilton』2/22 20:00〜 @Richard Rodgers Theater

 今回の旅の主目的は、『Hamilton』を見ることだった。そもそも旅を思い立ったのが、これのチケットがネットで買えそうだということがわかったから。これが旅の後半にきたので、それまで生牡蠣もがまんしたし、荷物が増えてもちゃんとジャケットも持参した。

 アメリカのチケットぴあ的なTicketmasterというサイトで発売されているんだけど、正規販売のチケットは半年先まですでに発売されてて、ほとんどが完売してる。しかしこのサイト、正規販売のチケットと同じ画面で、リセール(転売)のチケットも扱っていて、割高になるもののそれが普通に買えて、正規のチケットと同じように、オンラインで発行したチケットをプリントして持って行けばそのまま使えるという、さすが資本主義の国、という仕様になっている。転売ビジネスを取り込んでしまっている。もちろんそれによるチケットの高騰はアメリカでも問題になっているらしく、その対応として、公式のチケット販売価格が値上げされたという。さすが資本主義の国。そのほかにも、いくつか救済措置が設けられているものの、現地での当日抽選などいずれも観光客向きではない。というわけで、正規のチケットでも300USD ぐらいからなので、かなり気合いを入れないといけない。結局買ったのは2階席後方の席でコミコミ700USDぐらい。飛行機代よりちょっと安い。高い、高いけど、これを見ないと意味がない。というわけで買った。

 この機会をムダにしてはいけない、ということで、チケットを取って早速サントラを購入。ヒップホップのミュージカル、普通の英語すらろくに聞き取れないのに、ラップなんていきなり観たって明らかに無理なので、そこは早々にあきらめて、徹底的に予習することにする。歌詞カードが公式サイトにあったので、そのPDFをiPadで聴きながら読むという完全に普通の英語学習。とはいえ結構難しいので、思ったより時間がかかって最後までちゃんとは読み切れなかったけど、ストーリー展開と、キーフレーズぐらいは頭に入れてから渡米できた。

 当日。そんなプラチナチケットなので、やっぱりアメリカ人も結構舞い上がっていて、入り口でめちゃくちゃ写真を撮ってたりする。まあ、自分も撮ったけどね。たくさん撮ったけどね。結構みんなちゃんとした格好をしてる。ジャケットを持って来て正解だった。入ってすぐにパンフレットを買ったけど、PLAYBILLという薄いパンフ的なのはタダでくれた。飲み物は場内で買うと、ふた付きのタンブラーに入れてくれて、中に持ち込める。タンブラーもハミルトン仕様になっててお土産になる。

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 席は二階の後ろの方だけど、ステージからは思っていたよりも近くて、しっかりと見える場所。座席はでかいアメリカ人には辛いサイズ。古典的なヨーロッパ調の内装にはブロードウェーの伝統が上書きされて、今となってはしっかりとした歴史を感じさせる。ステージは中央に回転舞台の仕掛けがあって、そのまわりを2階立てのセットが囲んでる、わりとシンプルな舞台。始まる前は結構みんな写真撮ってて、自分も場内の写真を撮ったけど、ルール的にはどうなってるんだろう、なんとなく曖昧な運用がうまくいってる感じだったけど。

 いよいよ開演。『Hamilton』はアメリカ独立戦争を舞台にしたミュージカルで、ジョージ・ワシントンの部下で合衆国憲法の起草に関わったアレクサンダー・ハミルトンを主人公に、彼の公私の盛衰を「ヒップホップで」歌った作品。メロディーのある曲と曲の間もすべてflowの効いたラップでつながれていることから、全編に渡って曲がついたという意味のsung through musicalにラインナップされる(ブロードウェー作品でも結構珍しい)。出演者のほとんどが人種的なマイノリティであり、ジョージ・ワシントンをアフリカ系の俳優を演じるなど、多様性にフォーカスしたキャスティングが特徴的。移民問題に対する社会的な関心が高まる中、主人公ハミルトンが孤児から苦学の末にアメリカに渡ってきた経歴の人物であることも合わせて「移民が作り上げた国アメリカ」を主張する作品として注目を集めたことで、2015年の上演後、トニー賞11部門、グラミー賞ピュリッツァー賞と取れる賞は総ナメにして現在も半年先までチケットが完売というメガヒット作品である。脚本・作詞作曲・主演(!)のリン・マニュエル・ミランダはその後、ディズニーアニメ『モアナと伝説の海』の共同脚本・作曲も手がけており、『Hamilton』も映画化が決まっている。

 始まって暗くなる時は「ああ、ついに始まる!」という感動が押し寄せた。そういえば「幕が上がる」というけれど、始まる前から緞帳は上がりっぱなしだったな。はっきりした暗転もなく、客席のざわめきがおさまらないうちに突然音楽が始まった。その後も、とにかくテンポが速かった。曲ごとに拍手や歓声が起きるんだけど、それに応えるような間はほとんどないまま、どんどん進んでいく感じ。サントラを聴き込んでたわけだけど、ほかのミュージカルだと、サントラの間にセリフが入る場合もあるし、そうじゃなくても曲のつなぎ目で少しテンポが落ち着くタイミングが必ずあって、そうするとサントラで聴くのと実際に観るのとでだいぶ印象が違ったりするけれど、今回はサントラのテンポそのままの勢いで突き進んでいったような印象だった。唯一ヨークタウンでの勝利をハミルトンとラ・ファイエットが報告するシーン(つまり、アメリカが独立を勝ち取ったシーン)では観客からすごい歓声で少しの間芝居が止まった。外国人としては「そこなんだw」と新鮮な驚きがあった。

 印象的なシーン。まず、ワシントンの登場シーンがかっこよすぎた。ワシントンとハミルトンのライバルであるアーロン・バーはアフリカ系の俳優が演じるんだけど、ふたりとも信じられないぐらい手足が長くて、めちゃくちゃカッコイイ。そして、なんと言っても議会のシーン。議会での激しい議論が、MCバトルという形で演出される。舞台セットもシンプルでそれほど時代劇な印象がないので、ストーリー以外はほとんど衣装だけが演出上の時代劇要素になっているんだけど、軍服姿のふたりがワイヤレスマイクを握ってラップの応酬をするシーンは、一歩間違えばコメディになるんじゃないかという奇抜な演出だけど、もう超絶カッコイイ。これ日本でもぜひマネして欲しい。

 役者の動きが加われば、歌詞の意味が明確になって、予習していっても、というか予習したからこそ気づきがあって、予想通り歌詞をその場で聞き取るのは絶望的だったけど、言葉の迫力は十分に感じることが出来た。ミュージカル観ると毎回思うのは、「この音」が全部あの舞台上で作られているのが信じられないということなんだけど、今回はさらに、あのめちゃくちゃハイテンポなラップをよどみなく何十、何百のステージにわたって繰り返すのはもはや超絶技巧とも思える。

 ストーリーと演出については、キャストの多様性が話題になった作品だけれども、ちょっと見方をずらすと非常にマッチョなミュージカルである。ストーリーも戦争と政争に明け暮れ、セックススキャンダルにまみれた主人公の話だし、ヒロインのスカイラー姉妹は完全に脇役。何でも批判しようと思えば、というところではあるけれど、こういう批判はそれなりにあるんだろうか。

 この作品に限らず、今回の旅でWTCやアーリントン墓地を訪れた時も感じたことなんだけど、アメリカは愛国心には無批判だと言う実感があった。そしてそれは、郷土愛のような素朴なものとは性質が違って、アメリカが戦争を繰り返してきたことで、過去の戦争やそれによって死んだ人々を肯定しなくてはいけないという、政治的というには残酷だけれども、はっきりと政治的な意図によって構築されたものである。アメリカ独立戦争から、南北戦争、二度の大戦、ベトナム、湾岸、イラク、アフガン、その都度、多くの国民が死に、それを礎にアメリカは発展してきた(という事実、あるいは神話)。自国の政策によって多くの国民が死んだという事実は、国家の維持のために正当化されなくてはならない。ベトナム戦争イラク戦争が間違った政策だとして批判されたとしても、すでに行われた戦死はアメリカの為の戦死だということは共有されている。当然と言えば当然だが、アメリカの愛国心はそうやって戦争を繰り返すごとに各世代に受け継がれていく。政治も経済も、国家を構成する人々も、めまぐるしく変化してきたアメリカでは、「アメリカを愛すること」がアメリカをひとつの国家として維持してきた。

 アメリカは多様性を育む文化を維持し続けながら、自国を愛することが国家を維持してきた。この点は、外国から見てアメリカが魅力的に(あるいは敵意の対象として)映るとすれば重要な要素だろう。しかしこれは鶏と卵の問題、つまり「戦争が先か、愛国心が先か」という問題を抱えることになる。そしてこれは、一度戦争による自国民の犠牲者が出れば、もはやその宿痾を患うことから逃れることは不可能に思える。戦争が起これば、愛国心を批判できなくなる。愛国心はその政治性を戦争とその犠牲によってタブーにされてしまう。日本人はこのアメリカの状況をとても客観的に見られるのではないだろうか。そして、これからもそうあるべきではないか。そんなことを考えた。

 『Hamilton』は建国の父達を現代にタイムスリップさせ歌わせる。当時ハミルトンやワシントン達が作り上げた国を、今は「我々」が作り上げているという自負を歌う作品だ。自国の「今」を愛し、尊敬し、誇りに思っていないとこの作品は生まれないだろう。劇場は、ブロードウェイは、それを何百ドルも払って確認する場なのだ。ブロードウェイ・ミュージカルは間違いなく世界に比類ない文化で、『Hamilton』はそれを余すところなく伝える素晴らしい作品だと思う。だからこそ、今回の旅の締めくくりとして、旅の過程で感じた整理できない想いを反復し、怒濤のラップバトルの中に今のアメリカを見ることが出来た。

 

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2.『Waitress』2/23 19:30〜@Brooks Atkinson Theatre

 翌日もミュージカルを見ることは決めていたのだけれど、演目は決めていなかった。ハミルトンを見てやりきった感が出たのもあって、疲労がピークにきていて、この日はブルックリンのでっかい美術館に行く予定にしていたのだけど、それをキャンセルして、でっかいカメラも部屋に置いて近場でぶらぶらすることにした。というわけで、朝寝坊をしていろいろ買い物したりしながら、グランドセントラル駅のオイスターバーで早速ビール。ハミルトン観るまでは生牡蠣をがまんしていた。

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 そのあと、まずはWickedの当日券の抽選にチャレンジするもはずれる。それからタイムズスクエアtktsという当日券売り場にいって、ボードで演目を選ぶ。ボランティアの人が演目についていろいろ教えてくれたりして、観光客に優しいニューヨーク。オペラ座の怪人とか、キンキーブーツとか知ってるやつもちらほらあったんだけど、どうせなら知らないやつを観ようと思って選んだのが『Waitress』。予備知識ゼロなので、その場でちょっとググって、タイトルとか看板のやさしそうな主演女優の微笑みとかから、そんなに難しい話じゃないだろう、というので選択したw。チケット代はハミルトンの7分の1、一階席前方の超いい席。昨日は2階席でもそんなに悪い席じゃないと思ったけど、やっぱり舞台の近さが違う。

 内容は予想通り、昨日とはうって変わってとてもオーソドックスないかにもブロードウェイ的な、明るく、わかりやすい話で、言葉が多少聞き取れなくても全然わかりやすくて、ちゃんとみんなが笑ってるところで笑えたりしてうれしかったな。田舎町のファミレスで働くウェイトレスが、夫のDVに耐えながら一生懸命パイを焼いて、なけなしの貯金をして離婚しようとしていた矢先に妊娠が発覚して、産婦人科医と不倫して、最後は歌ってハッピーエンド。

 まあ、まったく屈託なく明るい話かというとそうでもないんだけど、基調が軽いので、サクッと食べられる感じでした。田舎の閉塞感がテーマになってて、抜け出したいけど、私パイを焼くことしか出来ない、みたいな、でも彼女のパイは絶品、みたいな。地方と都市の分断は日米共通の課題。アメリカの方がスケールがでかいから壁も厚いのかもしれない。田舎の女性ががんばって自分の人生を手に入れるまでの物語で、観客も共感しやすいと思うけど、それをニューヨークのど真ん中でミュージカルで見てるっていうのは欺瞞な感じがしなくもないw。とはいえ、我ながら良い選択だったと思う。

 観たあと劇場を出ると、何やら向かいの劇場前に人だかりが。いわゆる出待ちというやつで、誰が出て来るかとしばらく待っていると、ケイト・ブランシェットが出てきた。東京には芸能人が、的なノリで、NYにはセレブがいた。

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 昼間街を歩くついでに国連本部まで行った。これはたしかに良い建築。