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糸電話たぐり寄せてふたり 『たまこラブストーリー』

盛大にネタバレ注意。

 たまこマーケットの放映前に公開されたキービジュアル(たまことみどりとかんながおもち持って縦に並んでるやつ)を見たときから、たまこに一目惚れをしていたのです。

 堀口悠紀子の絵はかわいい。なにがかわいいって、顔はもちろんなんだけど、手が柔らかそうで、本当におもちみたいで、赤ちゃんみたいで、すっごいかわいい。(そういえばTV版でみどりちゃんが豆大福を握りしめたまま泣くシーンの手は最高だった。)今作ではそれを自覚してか、手を映すカットがたくさん出てきてたまらなかった。例えば、告白されたあと、たまこが自室で自分の手を見るシーンが印象的に使われていた。やっぱり柔らかそうで、最高だった。そういう無垢な手が、バトンのキャッチがうまくいかなくて絆創膏だらけになって出て来る。そのときの痛ましさ、は単に手が傷ついているからだけではない、なんてことはわかりきっているのだけど、それが傷だらけの手を一瞬映しただけですっと感じ取れる。それは元々の手があんなに柔らかそうでかわいいからで、それをただかわいいだけじゃなくて、物語を伝える道具にしている。手だけじゃなく、そういう繊細な演出が光っていた。

 物語としては、たまこともち蔵の恋、これはもう本当に、美味しゅうございました。ということで最高だった。最高だったけど、プロットとしては王道すぎてあんまり言うことがない。告白されたあとのたまこのもち蔵に対する態度はもう少しシリアスに描いて欲しかったかな、「かたじけねえ」とか「おう、元気かもち蔵。」とかかわいかったけど。自分は今回のタイトルが出てから、いかに、ガチで、キュンキュン出来るか、を求めていましたw。

 (あらためて)物語としては、なんといってもみどりちゃん。TV版の序盤で気になる描写はあったものの、その後あまり前面に出て描かれることがなかったみどりちゃんの気持ちがここまでしっかりと描かれるとは予想していなかった。みどりちゃんのたまこへの想いは、明らかに恋愛のそれだった。それがいかに強い気持ちであったかが、たまこのおじいちゃんを入院させてまで描かれる。みどりちゃんがもちをのどに詰まらせたふりをするシーンは、短く淡々としたシーンながら、みどりちゃんのきっともち蔵に負けないぐらいの気持ちが描かれている。今回のみどりちゃんの物語は、淡い百合描写としてかたづけてしまえば美しいけれど、明らかにそれにとどまらない強度があると思っている。この点は別のところで書いてみたい。

 たまこともち蔵の恋愛というメインテーマを覆っているのは、恋愛に限らず、ずっと商店街の中で変らなかったふたりや周囲の人々との関係に変化が訪れる、それをどう受け止めるか、という話。本編上映前に流れる短編『南の島のデラちゃん』の中でチョイが(ここうろ覚え、あとで確認して直す)、「運命なんてどうとでも変えられる」という内容のことを言う。これは『凪のあすから』を思い出さずにはいられない、この作品がまさに主題として描いたのはこのことだった。そして、最終回あたりでほとんど同じセリフがあったと思う。凪いでいた海が波打つことと、昔と変わらなかった商店街に時間が流れはじめること。同時期に、今のアニメを代表するふたつのスタジオがほとんど同じテーマを打ち出してきたことは偶然とは思えない。

 話変わって、急に主観が濃くなるけれど、今作では、たまこともち蔵のキスシーンが見たかった!見たかったというより、どうやってキスするのかな、ってめちゃくちゃ演出を期待していた。そしたらラストシーンの「もち蔵、大好き!」(これだけでも十分たまらない気分になりますが!)も暗転だったでしょう。ここはこのセリフをどういう表情でたまこが言うのか、もち蔵が受け止めるのか、それを絵で、描いて欲しかった。見終わったあとももうひとつのラストシーンの妄想が止まらなくて、初めて薄い本が厚くなるってこういうことなんだ、って実感した。でも薄い本じゃ意味ないんだよ、作品の中で描いて欲しかったなあ。(その妄想のひとつが記事のタイトルになりましたw)

 すごくまっすぐ、普通にラブストーリー。恋愛を主軸において、まっすぐに描く、そんな当たり前のことを普通にやって見せたことが、この作品の大きな魅力だと思う。新幹線の発車間際に恋人を呼び止める、こんなシーンをちゃんと描いたことが。これは作品を深夜アニメの視聴者以外にも開く道筋を作るものだと思う。深夜アニメの特殊な文脈によらない、テレビドラマや実写映画と同じ見方が出来る作品として作られている。そういう作品たちと比較したときに、話はベタかもしれない。だけど、時間の止まった商店街から巣立っていく少年たちの物語や、複線として描かれるみどりちゃんの物語は、この作品にしかないテーマを提示していると思う。

 時間も普通に流れ、時とともに変化が訪れ、それを受け入れたり、あらがったりすることで物語が展開していく。いつしか時間が止まっていること、変わらない日常がいつまでも続くことが当たり前になっていた深夜アニメの特殊なルールに時間の流れを取り戻すこと。『けいおん!』にも見られたテーマを引き継ぎながら、今作では世代や家族といった主人公の周囲が描かれることで物語に拡がりを生んでいる。たしかな技術に下支えされた厚みのある表現、すごいアートだと思う。

 ものすごい褒めてるけど、正直に言うと見る前からこれぐらい期待していた。予想を超えてきたのはみどりちゃんの話ぐらい。キスしなかったからイーブンかなって(なんか違うw)。この京都アニメーションへの絶大な信頼感は揺るぎない。というわけで、たまこアフターストーリーの製作を熱烈希望します。


(言いたいことが多すぎて)
1.たまこがもち蔵を駅のホームまで追いかけるシーン。あれは京都駅。今までの京アニの作品ってロケハンやってて、それがどこで、って言うのは知ってても、関西が多いしあまりなじみがなかった。だけど、京都駅は何度か行ったことがあって、出てきた瞬間にどこかわかった。たまこが駅前から駅はいってすぐの右側の階段を駆け上がって、そうするとその先に新幹線の改札があって、という感覚があって、 ああ、これはあそこで起きているんだ、という実感、そこから来る感動はすごいものがあった。これから京都駅を使うときは毎回あんな気持ちにさせられるんだろうか、と思うとこの作品は罪深い。

2.ゲスいはなしですみません。失禁声優の名をほしいままにする洲崎綾さんですが、そのラジオの中ですら「きれいなままにしておきたい」といっていた大切な作品にまでこのネタを持ち込んでくるとはw。いや、本人の意向ではないんだろうけども。最近洲崎綾が好きすぎてヤバい。

3.今回はサブキャラの活躍がめざましかった(みどりはサブキャラとはもはやいえないとはいえ、かんながあんなにしゃべると誰が予想しただろうか)わけですが、個人的にはバトン部の双子がもう少し見たかった。あんまりしゃべらないでニコニコしているのがとても愛らしいといえばそうなんですが、もっと彼女のキャラクターがわかるシーンがあったら、本編そっちのけで彼女だけを見つめていたかもしれません。双子LOVE。66